子育て中の方や、幼児教育に携わっている方は「エリクソンの発達段階」という言葉を知っている方も多いのではないでしょうか。
エリク・ホーンブルガー・エリクソンは、心理社会的発達理論や、アイデンティティの概念を提唱したことでも有名なドイツ出身の発達心理学者・精神分析家です。
人生における人間の発達段階を8段階に分けたエリクソンの発達段階を知ることは、子供を育てるうえで大きなヒントとなります。子供の発達過程を正しく知り、その時期に適した課題を与え、サポートすることで、子供の持つ能力は飛躍的に伸ばすことができます。
エリクソンとは
エリクソンは、ユダヤ系デンマーク人としてドイツに生まれました。
北欧系の風貌が原因となり、ユダヤ教の教会やユダヤ社会から差別を受け、ドイツ人コミュニティからもユダヤ人として差別を受けたエリクソンの人生は、困難に満ちたものだったといいます。
また、出自や実の父親が所在不明である環境で育ったことも、心理社会的発達理論やアイデンティティの概念提唱に大きな影響を及ぼしたのではないかといわれています。
エリクソンが提唱した漸成的発達理論は心理社会的発達理論のひとつで、包括的に人間の発達を捉える理論として現在も教育機関や幼児教育、育児に広く参考とされています。
エリクソンは人間の発達段階を8段階に分け、各段階に心理社会的危機があり、それを乗り越えることで力を獲得できるようになるとしています。
親や周囲の大人が子供の発達段階を知ることで、その時期に課題とされる社会的危機を乗り越える手助けが可能となり、結果として子供が健やかに成長できるのです。
エリクソンの「発達段階」とは?
人が成長するうえで欠かせない「自我の発達」は、年齢によって違いがあるとエリクソンは提唱し、先ほども述べた通り8つの発達段階に分類しました。
それぞれの段階と、心理的課題、心理的社会危機を見ていきましょう。
【乳児期:出生から1年未満】
心理的課題:信頼
心理的社会危機:不信
【幼児期初期:1歳から3歳】
心理的課題:自律性
心理的社会危機:恥と疑惑
【幼児期後期:3歳から6歳】
心理的課題:積極性
心理的社会危機:罪悪感
【学童期:6歳から13歳頃】
心理的課題:勤勉性
心理的社会危機:劣等感
【青年期:13歳から22歳頃】
心理的課題:自我同一性
心理的社会課題:役割の混乱
【成人期:22歳から40歳頃】
心理的課題:親密性
心理的社会課題:孤立
【壮年期:40歳から65歳頃】
心理的課題:世代性
心理的社会課題:停滞
【老年期:65歳以上】
心理的課題:統合性
心理的社会課題:絶望
子供の発達段階について
子供の発達段階に関係がある、エリクソンの発達段階における乳幼児から青年期までの概要を見ていきましょう。
子供に発達段階があることを知り、その段階に合わせた接し方をしていくことで、子供の成長は大きく違ってきます。
乳児期(出生から1年未満)に関して
乳児期は乳児自身が信頼できる母親などとの出会いを通して、自分や他者を信頼できるようになる基本的信頼感を身につける期間です。
期待する力、周囲が自分を助けてくれると信じられる気持ちを育むことが、乳児期のテーマです。
親の不在や不和、乳児への虐待、放任は精神機能が正常に発達しない原因となり、基本的不信感が育ってしまい、情緒や行動の問題が発生しやすくなります。
幼児期初期(1歳から3歳)関して
幼児期初期は、言語が急速に発達し、自分からさまざまな行動をするようになる自律性が高まる期間です。
今後の人生において自分が主体となり、自主的に行動を起こすための基盤となる時期となります。
タイミングを見ながら自分で挑戦する機会を与え、さりげなく手伝いながら成功体験を重ねることで、子供はさまざまな物事に対する意欲を獲得します。
「失敗して、怒られたらどうしよう」「自分にはできないかもしれない」という疑惑や恥ずかしい気持ちを乗り越えられるよう、自律を助けることが大切です。
失敗しても、それを肯定してくれる環境が、自律性を育みます。
先回りして手伝ってばかりいると、意欲を持つことができなくなり、恥や疑惑といった葛藤が生じて発達を妨げるので、注意しましょう。
幼児期後期(3歳から6歳)関して
幼児期後期は、親と離れて過ごす時間が増える時期でもあり、自分で遊びを見つけたり、友だちに話しかけたりするといった経験を繰り返しながら、積極性を育んでいきます。
いろいろなことに興味を持ち、やっていいことかどうかの判断を悩みつつ、積極性が勝ると自分がやりたいことの理由が分かるようになりますが、間違った方向に向かわないようにしっかりと見守る必要がある時期ともいえるでしょう。
この時期、子供の積極性をしっかりと見守らずにあしらっていると、罪悪感を抱きやすくなってしまいます。
学童期(6歳から13歳頃)に関して
学童期は、勤勉性が発達する時期とされています。
小学校に通う時期と重なり、勉強することの楽しさや学び方などを身につけ、自らの知識欲を満たしたい、もっと学びたい、という気持ちが育つ時期です。
宿題や課題が出される年齢になり、その取り組み方も何度も繰り返しながら身につけていき、自分の能力を自然と理解し、自信をつけていきます。
一方で、全ての子供が勉強好きとは限りませんし、やはり得手不得手が存在しますから、壁にぶつかるケースも出てくることが考えられるでしょう。
そのような時に、親や教師などの周囲の大人がその壁に気づき、しっかりとサポートしてあげることで、子供は壁を乗り越えて成長することができます。
「テストの結果が悪かったから」と叱るのではなく、今後の対策を話し合うなど、子供が劣等感を抱くことがないようにフォローし、一緒に乗り越える姿勢を持つことが大切です。
青年期(13歳から22歳頃)に関して
青年期は自分に注目し、「自分とはいったい何者なのか」「自分には何ができるのか」「将来、どうしたらいいのか」といったことを考えた結果確立されるアイデンティティ、すなわち同一性が発達する時期となります。
自分の役割が分からず混乱する時期ですが、自分がどのような人間なのかを確かめながら社会と関わり、進学や就職などその後の人生に大きく影響を及ぼす行動に出るタイミングを迎えます。
悩んだり、ふさぎ込んだり、反抗したりと親をはじめとする周囲の大人から見ると心配な時期ではありますが、これは社会における自分なりの居場所を探すために必要な通過点です。
この時期に思いきり悩むことで、大人になるための準備を整え、自分なりの方向性を見つけることが可能となります。
<h2>子供の発達段階を理解し、適切な課題と手助けを</h2>
エリクソンの提唱する発達段階をベースとして、子供に対してその時期に適した課題や手助けを与え、見守ることが親や周囲の大人には求められます。
もっとも適したタイミングで課題や手助けを与えることで子供に自信を与え、成長を助けることが可能です。
そのタイミングが早すぎると子供の自信喪失に陥ったり、遅すぎるとそれ以降の発達に差し支えが出たりといったリスクもありますから、子供の発達段階を的確に捉えることが必要です。
そのためにも、子供を日々よく見守りながら、今どの段階にいて、どのような課題をクリアすべきかを判断していきましょう。
そして、その発達段階に応じた課題を与え、スモールステップでもクリアしながら自信を身につけることができるように、見守りましょう。