私たちは知識だけに頼って生きているのではなく、心の動きによって周囲の環境と交わっています。心の動きが「情」という言葉で表される通り、子供のうちから豊かな心を育てる「情操教育」はとても大切なことです。ここからは子供の情操教育について、始めるべきタイミングと具体的な方法を紹介します。
情操教育とは
人間にとって知の教育と同時に重要なのが情の教育です。情操教育の定義を見てみると、心情に働きかけて心の育成を図ることとされ、社会的価値のある感情や意志を育てる教育とも述べられています。
実際に情操教育を進めるうえでは、4つに分類された教育目標をもとにして、それらをバランスよく習得することを目指します。その4つの分類について概要を解説しましょう。
・道徳的情操教育
社会で生きて行くために必要な社会性・協調性を育て、自分の行動の善悪を見極めたり、相手を思いやる気持ちを育てる教育です。
・情緒的情操教育
命の大切さを学び、生き物などをいつくしむ心を育てる教育です。宗教的な一面もあり、自分とその周囲の世界の尊さを学ぶ教育といってもよいでしょう。
・科学的情操教育
知的好奇心を伸ばすことで、自ら考える力を育てる教育です。物ごとに対して興味を持ち、そこから生まれる疑問について考えながら、自分で解決する能力を高めることが目的です。
・美的情操教育
音楽・美術などの芸術や美しいものに触れ、感受性や美的センスを高める教育です。同時に外側に向けて表現する力を伸ばし、想像力を高めることにも役立ちます。
情操教育を始める時期はいつ
新生児の脳の重さは成人の3分の1～4分の1で、およそ400gです。その後5～6歳までの間に脳は急速に成長して、成人の90%程度にまで達してしまいます。もちろん組織として大きくなったからといって、大人と同じような能力を備えているわけではありません。
しかし脳の成長から考えると、0～6歳の間に知的教育と情操教育を受け入れる基盤は、十分に発達していることが分かります。またこの時期には基本的な脳の機能と同時に、自己の確立、他者への理解、想像力など、人間として生きるための重要な要素が整ってきます。
これらの条件から、情操教育を始めるタイミングは、0～6歳の幼児期から児童期が最適であることが見えてきます。この時期に心を育てておくことは、子供の将来にとっても非常に重要なことなのです。
幼児期の情操教育の取り入れ方
情操教育を始めるきっかけは、子供が何かに興味を持ったり、集中したりするようになった時です。物ごとに疑問を抱くようになると、自発的に行動することや考えることができるようになります。この時に発育段階に合わせて、さまざまな情操教育を取り入れるとよいでしょう。
情操教育と大げさに構える必要はないので、身近な題材を使ってできることから始めましょう。ここから、日常的に実践できる情操教育をいくつか紹介します。
絵本や本を読む
小さな子供に対して、両親が本の読み聞かせをしてあげることは情操教育の基本ともいえますが、非常に効果的な教育方法です。絵本や本は、子供の情緒を育てる材料としてはトップレベルの実力を持っているからです。
読書は想像力・好奇心・思考力など、多様な力を伸ばしてくれると同時に、親子で楽しい時間を共有することにもつながります。
ものを作る
身近にある自然のものや、家庭にあるものから、粘土や工作セットなどを使って何かを作ることも、情操教育には欠かせないステップです。できるだけ自然に近いものを使えば、子供は自分で工夫して何かを作り出そうとします。もちろん両親が参加して、一緒に楽しむことができれば、子供にとっては大好きな時間になるでしょう。
生き物を育てる
生き物を育てることは、命と向き合うことでもあります。そこには楽しみや喜びだけでなく、悲しみに直面する場面もあるでしょう。その中で子供たちは、命を扱うことの大切さと責任とを学びます。他者を思いやり命の大切さを知るためには、家庭にいつも生き物がいる環境が必要なのかもしれません。
芸術や文化に触れる
日常的に実践できるのは、まず音楽を楽しむことです。音楽的感性は人それぞれに異なるので、なるべくいろいろな音楽を聞かせて、その中から子供が好きな曲を見つけられるようにします。ほかにも子供と一緒に参加できる美術展やコンサートなどで、芸術・文化を理解できる美的センスを磨くことも可能です。
慣習的行事に参加する
日本には正月やお盆のような季節的行事が豊富にあります。このように昔からある伝統的な行事に参加することも、日本独特の情操教育として評価されています。具体的には墓参りをしたり、法事に参加したりすることが挙げられます。
習いごとをする
習いごとも最もポピュラーな情操教育の1つです。習いごとは自分のスキルを高めることであり、自立性と同時に特殊な技能を身につけることもできます。また周囲に同年代の子供たちがいることから、協調性やコミュニケーション能力を高めることもできるでしょう。
自然に触れる
身体がしっかりしてきたら、自然の中で活動する時間を増やすことも重要です。遊びや楽しみの延長線で、家族で旅行やキャンプに出かけることだって情操教育の1つです。自然に触れることは、自分の身体の感覚を高めることにもつながります。子供のうちにいろいろな体験をすることは、大人になってからも経験として生きてくるものです。
スポーツ活動に参加する
スポーツクラブなどに加入することは、身体を鍛える目的以外にも、社会性や協調性を育てるうえで重要な役割を果たします。ダンスやバレエのような、芸術的活動も同様です。身体を動かしながら心を刺激することは、バランスのとれた人格形成に最適だといえるでしょう。
子供と触れ合うことで大事なこと
最後に、情操教育を実践するうえで重要なポイントを紹介しておきます。まずは子供の自主性を尊重して認めてあげることです。上手にできたら一緒になって喜び、思い切りほめてあげることが大切です。
また、ルールにしばられずに活動できる環境を整えて、のびのびと自由に遊ばせてあげることも大切です。そしてもう1つ大切なことは、子供が持つ好奇心を可能な限り高めてあげることでしょう。
こうした点を頭に置きながら、日常的に始められる小さなことから、情操教育に取り組んでみるとよいでしょう。子供にとっては毎日の生活こそが、情操教育なのかもしれません。
親子で一緒に楽しむことが情操教育の第一歩
0～6歳の間に、人間の子供はさまざまな面で急速に成長します。この時期に身体とバランスをとりながら心を育てることは、非常に重要なことです。情操教育を始めるにあたっては、早過ぎるということはまずありません。年齢に合わせた最適な教育の仕方があるからです。
しかし幼児期の子供は、一人では社会的なことはほとんど何もできません。そこで大人が積極的に、子供にいろいろな体験をさせてあげる必要があるのです。その時に重要なのは、大人からの一方的な押し付けにならないこと。
それは決して難しいことではありません。大人も子供と一緒に楽しめばよいのです。親子で一緒に楽しめる時間をつくり、一緒に過ごすことから情操教育は始まっているのです。
参考資料
